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刑事事件専門 弁護士中澤剛のblog

2014年2月18日

某大手パンメーカー配送車の運転手のパン配布行為は犯罪になるか・・・逮捕に強い東京の刑事事件専門弁護士中澤剛

author:弁護士 中澤 剛

ネット上のニュースで,某大手パンメーカーの配送車の運転手が,この度の大雪で足止めを食らって立ち往生している方々に,配送車に積まれているパンを配ったということでニュースになっています。この運転手さんの行為は,刑法上全く罪にならないのでしょうか。

実際は,会社の許可があったようですが,ここでは,仮定として,仮に電波も悪く会社に連絡が取れず,事前に会社のそのような許可もなく,むしろ会社としては販売して利益をあげたかったのにもかかわらず,運転手さんが会社の意思に反して,義侠心からこのような行為を行った場合を想定してみます。

ここでは,業務上横領罪(刑法253条)の成否が問題となります。

参考:(業務上横領)
第253条 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処する。

1 まず,構成要件該当性から検討します。

(1)トラックの運転手さんは,パンの配送を業務として行っていますので,「業務上」といえます。
(「業務」の正確な定義にあてはめると若干不正確なあてはめですが,ここでは措きます)。

(2)「自己の占有」といえるか,ですが,業務上横領罪は委託信任関係違背,つまり,任せたのにその信頼を裏切ったことが犯罪の本質ですから,この占有は,委託信任関係に基づく占有である必要があります。
 この点,配送の運転手さんは,パンの配送を任されていますので,その占有は委託信任関係に基づく占有といえます。
 次に,配送の運転手さんは,大手パンメーカーや配送先との法的関係は必ずしも明らかではありませんが,どのような関係にせよ,配送という形で大手パンメーカーや配送先の支配領域内から外に出ているのですから,「自己の占有」があるといえます(「自己の占有」が認められないと,窃盗罪の成否が問題になります)。

(3) パンの所有権は大手パンメーカーまたは配送先にあり,配送の運転手さんの所有物ではないので,「他人の物」といえます。

(4) 「横領」したといえるかですが,横領とは,不法領得の意思の発現行為であり,不法領得の意思とは,他人の物の占有者が,委託の任務に背いて,その物につき権限がないのに,所有者でなければできない処分をする意思を言います(司法試験の受験生はこの定義を皆暗記させられます・笑 私は,「他委そ所」と暗記していました)。
 そして,委託物を他人に贈与することも,そのような処分権限を与えられていない限り,「横領」に該当します(判例として,東京高判S39.4.8東時15巻4号47巻)。
 本件で,運転手さんが行ったことは,パンを近くの人に贈与したことになるので,「横領」といえそうです。
 もっとも,本件の運転手さんは,このような義侠心溢れる行為を行ったことにより,その大手パンメーカーの評判を向上させているようです(インターネット上では,賞賛する声があふれています)。そこで,この運転手さんの行為は,会社のためになされた行為であり,「横領」といえないのではないかが問題となります。
 横領とは,委託信任関係違背に本質があり,本人のために行った場合には,不法領得の意思に欠け,「横領」には当たらないことになります。
 そのため,運転手さんが,まさに会社の名声のために行ったのであれば,不法領得の意思を欠き,「横領」したとはいえず,業務上横領罪は成立しないこととなるでしょう。
 もっとも,本件で,運転手さんの主な意図は,道端で凍え,餓えて困っている人たちを助けたいという義侠心にあるように思われます。そうすると,会社の意思に反する行為を行ったとして,「横領」には該当しうることになるでしょう。

以上から,業務上横領罪の構成要件該当性は肯定されそうです。
 
2 次に問題となるのは,違法性阻却の有無です。
 考えられるのは,緊急避難(刑法37条)です。

参考:刑法37条1項本文
(緊急避難)
第37条 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。

(1) この条文からわかるとおり,緊急避難は,自分自身ではなく「他人の」生命,身体,自由が危険にさらされているときでも成立します。
従って,道にいて困っている人々(「他人」)が,食糧もなく,餓死してしまうような危険があった場合には,運転手さんとしてがこれを助けるために自分の車のパンを分け与える行為は,「他人の生命,身体」に対する「現在の危難を避けるため」の行為であるといえるでしょう。

(2)「やむを得ずにした行為」とは,補充性がないこと,つまり,他に手段がなかったことを言いますが,今回の雪の状況からして,それ以外の方法はなかったと評価しうると思います。

(3)「これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった」というのは,法益権衡の要件といいまして,今回の例でいえば,パンという(命よりは価値の低い)財産という法益を犠牲にして,命という尊い法益を守ったのだから,「生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった」といえることになります。

以上から,緊急避難は成立しうるように思います。
その場合,運転手さんは無罪ということになります。
もっとも,食糧が豊富にあり,生命や身体に危険がなかったのであれば,「現在の危難」は否定されることになるでしょう。

3 仮に緊急避難が成立しない場合,責任の有無を検討します。
(1) ここでは,適法行為の期待可能性があったといえるか,が問題となると思いますが,通常は肯定されるでしょう。
(仮に,皆が飢え死にしそうであったのであれば,パンをあげないという選択肢はなく,適法行為の期待可能性がなかったのではないかという疑問が生じますが,前述のとおり,皆が飢え死にしそうな場合には,そもそも緊急避難が成立するので,適法行為の期待可能性の話にはならないでしょう)

(2) なお,違法性阻却事由に関して錯誤がある場合もありえますが,事実の錯誤であれば故意を阻却することになります。

4 仮に,業務上横領罪が成立した場合でも,刑事手続上は,本件は,起訴されるリスクは極めて小さいと考えます。
 もっとも,大手パンメーカーが勝手にパンをあげたこの運転手の行為に激怒し,告訴した場合などには,若干リスクがあるでしょう。
 その場合には,刑事弁護人としては,その大手パンメーカーさんとの示談交渉に全力を尽くすことになります。
 示談が成立すれば,100%起訴はないでしょう。

以上,全く空想の話でした。実際には,大手パンメーカーさんも今回の事案では運転手さんの行為を賞賛ないし許容しているようであり,上記の設例は,全くの仮定であることを付言しておきます。

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カテゴリー:刑事事件 comments(0) 12:05 AM 

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